西アジア古代都市プロジェクト

安間研究室では、新学術領域研究(研究領域提案型)「都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学祭研究」(2018〜2022年度)の計画研究代表として、「西アジアをめぐる水と土と都市の相生・相克と都市鉱山の起源」についての研究を推進しています。

私達の計画研究は、

i) 都市化を可能にした水・堆積環境と資源集積システムの発生

ii) 金属濃集からみた都市の起源

iii) 粘土製品作成技術(粘土テクノロジー)の発達

の3つのテーマを軸に、環境変動が都市の形成や衰亡に及ぼした影響、都市鉱山化をもたらした資源集積システムやコミュニケーション網の整備と維持、各種テクノロジーの発達過程を構造物・製品遺物の材料から物質科学的に明らかにしていきます。

古代西アジアをめぐる水と土と都市の相生・相克と都市鉱山の起源

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PLANNED-18H05447/

  • 研究の紹介
  • 黒曜石の原産地推定
  • 遺跡土壌や水路堆積物への金属元素の濃集
  • 肥沃な三日月地帯の古景観
  • 乾燥化と砂漠化

西アジア産黒曜石の原産地推定

肥沃な三日月地帯は、定住化と農耕や牧畜の開始をともなう新石器革命の舞台となりました。新石器時代に入るとさまざまな地域から長距離交易をとおして黒曜石の原石がもたらされ、現地で加工されて利用されています。西アジアではアラビア半島衝突帯の周辺部に黒曜石の産地が知られていますが、それらは場所ごとに異なる微量元素組成を持つことが知られています。様々な遺跡から出土する石器材黒曜石の組成を調べることで、黒曜石原石の採掘場の変遷、輸送伝播経路、遺跡現地での加工利用技術の経時的・空間的変化が理解できると期待されます。

出土品の輸入は制限されていますので、現地の携帯型蛍光X線分析装置を持ち込んで測定を行います。

アラビアプレート衝突帯外縁部の黒曜石を産する第四紀火山の分布と石器材黒曜石の組成を測定した遺跡
アナトリア地方産(白抜き)およびアルメニア地方産黒曜石(塗りつぶしボックス)の化学組成幅。Campbell and Healey (2016), Chataigner and Gratuze (2014a, b), Frahm (2012), Frahm et al. (2016), Poupeau et al. (2010) などのデータを用いて作成した。
アナトリア地方産(白抜き)およびアルメニア地方産黒曜石(塗りつぶしボックス)の化学組成幅。Campbell and Healey (2016), Chataigner and Gratuze (2014a, b), Frahm (2012), Frahm et al. (2016), Poupeau et al. (2010) などのデータを用いて作成した。
HasankeyfおよびJarmo出土石器材黒曜石のZr-Srプロット。Qalat Said Ahmadan出土黒曜石は先土器新石器時代、ハッスーナ期、ハラフ期の時代ごとにプロットした。
HasankeyfおよびJarmo出土石器材黒曜石のZr-Srプロット。Qalat Said Ahmadan出土黒曜石は先土器新石器時代、ハッスーナ期、ハラフ期の時代ごとにプロットした。

水路堆積物や遺跡土壌への金属元素の濃集

銅や銀、鉛の利用は銅石器時代にはすでに始まっており、人口の集中が進展し、都市化が進むにつれて交換財として、あるいは日用品として用いられるようになります。最初の都市とされるシュメール人の都市国家群が建設されたメソポタミア下流域では、これらの金属を産する鉱山はありませんから、都市間に張り巡らされた水路の堆積物や遺跡付近の土壌中にこれらの金属元素の濃集が認められれば、それは都市化の指標として使えるかもしれません。

アッシリア時代の遺跡ヤシンテペの水路堆積物に認められた銅、亜鉛、鉛、錫の金属元素の濃集
アッシリア時代の遺跡ヤシンテペの水路堆積物に認められた銅、亜鉛、鉛、錫の金属元素の濃集

肥沃な三日月地帯の古景観

新石器革命の舞台となった、メソポタミアを取り囲むように分布するいわゆる“肥沃な三日月地帯”には、新石器時代にアクティブであったいくつもの遺跡が知られています。Braidwood & Howe(1960) の研究で取り上げられたジャルモ遺跡は、その最も高名な例です。現在のジャルモ遺跡は水源となりそうなチャム・ガウラ川によって侵食され、ケスタ地形の発達する大地を削る川から比高にして数十メートルも隔てられています。しかし、遺跡がアクティブであった時代にはどうだったのでしょうか?わたしたちは、宇宙線生成核種を用いた地形年代を明らかにし、精密な地形情報と組み合わせて、遺跡がアクティブであった時代の古景観の復元にチャレンジしています。

乾燥化と砂漠化のプロセス

気候変動は人類の歴史を通して、その営みに大きな影響を与えてきました。イラク中央部に位置するUmm al-Aqarib遺跡は紀元前3千年紀に栄えた重要な都市の一つと考えられていますが、現在ではバルハンとよばれる三日月型の砂丘によって飲み込まれつつあります。わたしたちは、砂の光への暴露年代や気象データに基づいた砂の移動速度の推定、衛星画像の解析などから、この遺跡周辺での砂丘の移動や砂漠化のプロセスを明らかにしていきます。

フィールドワークの紹介

このプロジェクトに先立つ新学術領域研究(研究領域提案型)「現代文明の基層としての古代西アジア文明−文明論お衝突を克服するために−」(2012〜2016年度)から数えてすでに10年間、イラン・イラク・トルコ・オマーンといった国々の方たちと接してきたことになります。

2010年から2011年にかけて発生したアラブ世界の民主化運動「アラブの春」後の政治的混乱やコロナウィルスによるパンデミックの影響に翻弄された10年ですが、内戦が起ころうが、禁輸措置が取られようが、その中で人々は日常の暮らしをしていますし、現地の研究者は劣悪な環境の中でも懸命の努力をしています。われわれは、そのときそのときにぽっかりと空白的に生じる政治的安定地域に入って、したがって時とともに地域をかえながら、西アジア諸国での研究活動を継続してきました。そんな西アジア諸国でのフィールド・ワークの様子を伝えます。