西山研究室

応用地質学研究室

西山賢一プロフィール http://pub2.db.tokushima-u.ac.jp/ERD/person/72575/profile-ja.html

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研究テーマ:山地域で発生する斜面災害(地すべり・斜面崩壊・土石流)と,斜面災害を引き起こす準備物質といえる岩石・岩盤の風化帯の形成過程に関する研究

西山研究室では,主に,山地域で発生する斜面災害(地すべり・斜面崩壊・土石流)と,斜面災害を引き起こす準備物質といえる岩石・岩盤の風化帯の形成過程に関する研究を行っています.また,平野における地盤災害の予測の観点から,平野を構成する第四系の層序・年代・地盤工学的性質についても研究しています.理学である地質学・地形学をベースとして,地盤工学・防災工学を視野に入れた応用地質学の研究を進めています.

日本は山がちの国土からなり,島国のわりに標高1,000~3,000mもの急峻な山地が広がることに加え,豪雨や地震・火山噴火がたびたび発生するため,山地斜面が崩れて人的・物的な被害をもたらす斜面災害が,これまで繰り返されてきました.

斜面災害は,必ずしも人里離れた奥山でのみ起こる現象ではありません.都市域も郊外の山地を切り開いて拡大してきた歴史を持つため,都市の中にも危険な斜面はたくさんあります.

斜面災害による被害を軽減するには,斜面が崩れる現象を理学的に解明し,その結果に基づく工学的な対策をとることが必須です.さらに,戦後の都市域拡大の過程で生じた,崩れやすい危険斜面直下の住宅としての土地利用を,段階的に減らしていくための社会的な取り組みも重要になると考えています.

一方で,例えば地すべりは,急峻な山地斜面のなかで緩斜面をつくる側面を持ちます.時には荒ぶることのある地すべりという自然現象を,古来から日本人は棚田として利用しており,美しい棚田の景観が各地に伝えられています.災害をうまくやり過ごし,大地の恵みを享受してきた伝統的な日本の土地利用について,地質学的に再評価することも重要だと考えています.

写真1は,2018年7月に発生した西日本豪雨災害により,愛媛県宇和島市で発生した大規模な山崩れ(斜面崩壊)の発生地点の様子です.日本列島の土台をつくる付加体堆積岩(四万十帯)の斜面が大きく崩れ,土砂が渓流を伝って谷口まで流れ出しました.写真2も,同じ西日本豪雨により,広島県東広島市の流紋岩からなる斜面で発生した斜面崩壊に由来する土石流が流下した斜面の様子です.

愛媛県宇和島市で発生した斜面崩壊
写真1 2018年西日本豪雨により,愛媛県宇和島市で発生した斜面崩壊.土砂は下流の吉田公園まで達した.2018年8月撮影.
土石流が流下した斜面
写真2 2018年西日本豪雨により,広島県東広島市で発生した斜面崩壊に由来する土石流が流下した斜面.土石流は,写真撮影地点より下流にある広島国際大学キャンパス付近まで達した.2019年3月撮影.

この種の斜面災害は,豪雨の時に発生しやすい特徴がありますが,一方,地震時にも多発します.写真3と4は,2016年に発生した熊本地震の際,阿蘇火山の山麓で発生した地すべりの様子です.火山地域は,噴火で噴出した軽石・火山灰などが,もとの地表に平行に厚く降り積もっており,それらが地震時に崩れやすい特徴を持っています.2018年に発生した北海道胆振東部地震でも,同様の災害となりました.

熊本県南阿蘇村で発生した高野台地すべり
写真3 2016年熊本地震により熊本県南阿蘇村で発生した高野台地すべり.左上部の建物は,京都大学阿蘇火山研究センター.2016年4月撮影.
熊本県南阿蘇村で発生した高野台北地すべり
写真4 2016年熊本地震により熊本県南阿蘇村で発生した高野台北地すべり.写真2の高野台地すべりの北隣で発生した.2016年4月撮影.

このような斜面災害を引き起こす地質学的な原因としては,上述した火山噴出物の地質学的な特徴に加えて,もとは硬質な岩石が,水と酸素が豊富な地表環境下で,しだいにもろく変化する「風化作用」が重要です.

写真5は,2011年に台風12号による紀伊半島豪雨災害が発生した三重県に分布する花崗斑岩(熊野酸性岩)の採石場でみられる「風化帯」の様子です.採石場の下半分は,縦方向に延びる規則的な割れ目(節理)が見えますが,上半分ではその規則的な割れ目が不鮮明になり,特に地表に近い最上部は,球状をなす岩塊の集合体に変化し,岩塊の周囲は褐色に変化しています.このように,岩石の風化は色彩の変化として表れやすく,風化によって岩石の強度は低下し,雨水はより浸透しやすくなります.

花崗斑岩の風化帯構造
写真5 三重県紀宝町の採石場で観察される花崗斑岩の風化帯構造.掘削面の高さは約100m.2011年11月撮影.

写真6は,紀伊半島南部の和歌山県那智勝浦町に分布する泥岩を切土した掘削斜面でみられる風化帯の様子です.切土工事をする前の山形の地形と調和的に,褐色を呈する風化帯が,バームクーヘンのように地下に分布していたところを掘削したものです.風化帯の厚みは約2mで,それより深部は青灰色を呈する新鮮な部分からなります.このような風化帯が厚く分布する急斜面が,豪雨や地震時の崩壊危険地域と予測されます.

風化帯構造
写真6 和歌山県那智勝浦町に分布する泥岩の掘削のり面で観察される風化帯構造.褐色を呈する風化帯の厚さは約2m.2016年撮影.

このような岩盤の風化帯の形状に類似した変色部は,もっと小さな岩石でも見られることがあります.写真7は,宮崎県・宮崎平野に分布する段丘堆積物(第四系)に含まれる砂岩礫(四万十帯の砂岩)です.礫の切断面には,バームクーヘン状の同心円状変色部が観察され,「風化皮膜」と呼びます.礫の風化皮膜は,ゼラチンなどを用いて実験室で再現できる「リーゼガングリング」という物理化学現象と酷似しています.

岩盤斜面に見られる厚さ数mオーダーの風化帯と類似した現象が,直径10cm程度の礫でも生じていることは,自然現象のフラクタル性(自己相似性)の表れともいえ,自然現象の複雑さのなかに潜む規則性を感じさせます.

風化皮膜
写真7 宮崎県・宮崎平野に分布する段丘堆積物中の砂岩礫に見られる風化皮膜.2006年撮影.

卒業生の主な研究テーマ(過去数年の代表例)

  • 徳島県那賀川流域の地形的特徴から見た斜面崩壊危険度
  • 徳島県南東部の海岸域に分布する地すべり地形の地形的特徴
  • 徳島県南部における学校の災害危険度評価
  • 和歌山県南東部,田辺市本宮町地域の地形と斜面変動
  • 三重県御浜地域に分布する山麓緩斜面の地形的特徴
  • 渓流地形を指標とした紀伊半島南部に分布する花崗斑岩の侵食過程
  • 鳴門海峡周辺の地下地質
  • 徳島平野における自然堤防の地形・地質的特徴