科学研究費基盤C(22K12314)によるプロジェクトは、2022年度から3年間のプロジェクト計画で行うものであり、従前の研究18H03344の研究を継承・継続的に研究を進めつつ、範囲を絞った展開研究と位置付けている。当該研究としては、2023年度は二年目となるが、研究の目的、副課題と合わせて、当該年度の対外発表や研究成果等の実績・進捗を概説する。
本研究では、時間・空間を2チーム間で共有しながら、チーム人数等を同条件下でゴール得点を競い合うようなチームスポーツにおける戦術理解を支援するための初期検討を行なっている。戦略は、大局的な観点から、最終的にチームを勝利に導くための方針・計画といえるが、戦術は局所的な観点の下で、状況を具体的に捉えた上での戦い方といえる。
2023年度は、バスケットボールを対象に戦術を学ぶ上での基盤となる実映像からのプレイヤの動きを上面図アニメーションとするためのマルチオブジェクトトラッキング技術開発、数理モデルからの戦術学習支援、複合現実環境を応用した注視点の視線学習支援に取り組んでいる。以下では,これらサブ課題ごとにまとめて2023年度の研究概要を紹介する。
■発表文献毎の成果概要
1.マルチオブジェクトトラッキング要素技術開発(ref. PR-1, NR-3)
コート上で行われるゲーム映像から、プレイヤ等のオブジェクトを抽出し、時間経過とともに位置を推移するオブジェクトをトレースしていく機能を複数のオブジェクトに対して同時に適用する手法をマルチオブジェクトトラッキング(MOT)と呼びます。これには機械学習が応用されているところですが、利用するカメラの数や個々のカメラの画角に応じて様々な工夫が行われています。
本プロジェクトでは、ノービス・アマチュアのチームも視野に入れて、1台から最大4台までの少数の位置固定カメラを想定したMOTの実装を行い、その際下記の課題を解決・改善するための設計・実装を行いました。結果、いずれも相対的な機能向上を観測することができました。
- マルチオブジェクトのトレースにはStrongSORTを採用
- オクルージョンの課題解決にはカメラ台数を2または4台まで対応
- 斜めからの撮影に対する射影変換時の水平・鉛直成分の誤変換に対して、平滑化処理で対応
2.戦術学習支援(ref. NR-1, NR-2)
実際の現場指示としてはコーチの主観やその時の雰囲気に応じた直感的差配にかけることもありますが、数理モデルを導入して客観的指標により、多数の行動選択の中からどれを選択すべきかは、その指標(つまり戦術に応じた目標状態へのお勧めの程度)に基づいて計算することができます。本研究では、コート上の各プレイヤの圧場に基づいて、チーム圧場を計算し、リスクに鑑みた比較的安全で得点に近づくパス相手を示すことにします。上面図からの視座となるが、空間認知変換を経て実空間への展開が可能と考えています。
3.注視点の視線学習支援(ref. NR-4)
コート上の実空間では、上面図のように全体俯瞰を直接できる状況とは違い、視覚的にはプレイヤの前面となる空間を把握しながら、視野の外にいるプレイヤを想像したり視覚とは別の感覚器を通じて推察したりします。特に前面については、しばしば焦点をあてているプレイヤやゴールといった対象オブジェクトとは異なる第二、第三の注視対象こそ実は周辺視によって注意を寄せていることが多々あります。そこで、本研究では、複合現実環境に三次元でのVRシミュレータを配置し、その中で視点をとらえながら、意識を集中させている位置とその意図を共有する環境を構築した。
■Achievemet-Paper List
(査読付:PR)
- Kenji Matsuura, Hironori Takeuchi, Kazuki Urushihara, Hiroki Tanioka, Stephen Karungaru and Tomohito Wada, “Multiplayer Tracking with Diagonal Video to Support Basketball Tactical Learning,” 2024 18th International Conference on Ubiquitous Information Management and Communication (IMCOM), Kuala Lumpur, Malaysia, 2024, pp. 1-5, doi: 10.1109/IMCOM60618.2024.10418315.
(査読無:NR)
- 竹内寛典, 小野健太郎, 松浦健二, 上田哲史 : 数理モデルを応用した戦術学習支援システム設計の検討, 教育システム情報学会2023年全国大会講演論文集, 225-226, 2023年8月. (奨励賞受賞)
- 柴崎剛人, 松浦健二, 竹内寛典, 小野健太郎 : バスケットボールの低リスクパス領域把握に関する初学者支援, 教育システム情報学会2023年度学生研究発表会, 2 pgs, 2024年3月.
- 漆原和輝, 松浦健二, 竹内寛典, 和田智仁 : プレイヤー検出による実映像からのアニメーション生成, 教育システム情報学会2023年度学生研究発表会, 2 pgs, 2024年3月.
- 高木翔大, 松浦健二, 竹内寛典 : MR環境を用いたバスケットボールの注視動向の学習支援, 教育システム情報学会2023年度学生研究発表会, 2 pgs, 2024年3月.