(2021)科研成果概要18H03344

2021年度は,本プロジェクトの研究期間として最終年度であり,研究成果の発表に注力した.結果,査読付3件,国内発表4件を実施した.以下,それぞれの発表概要を特に,査読付きの3件に注目して以下まとめる.

(1) 文献1

バスケットボールにおけるチーム戦術の発動を,チームとして連動しながら実現するには,その基本的な発動条件を理解・共有することが重要である.ただし,その連動のトリガを引いたり,得点への主要なアプローチをコントロールするのは,一概には言えないが,基本的にはボールキャリアであることが多い.そこで,ボール保持者に対する戦術選択の指標を与える環境を設計し,ボール保持していないプレイヤも含めて,その考え方を学べるシミュレータを開発した.

 ボール保持者には,無数の選択肢があるが,シミュレータ上ではその典型的なパタン抽出を行うべく,得点に直結しやすい行動として,ゴールまでの行動選択のホップカウントに一定の制限を設けて選択肢を設定した.具体的には,ボール保持者に与えられる選択肢には,まず単独ドリブル突破,直接シュート,があり,これらはボール保持者がゴールを狙うパタンである.また,ボール保持者以外がゴールを狙うパタンとしては,ドリブルしてのハンドオフやスクリーンプレイ等の接触を除外すれば,パスが原則必要となるが,その選択には,ボール保持者以外のチームプレイヤ4名が考えられる.ただし,本研究では,プレイヤ間の敵チームプレイヤの位置取りによるリスクを考慮して,プレイヤノード間の距離が遠くない味方プレイヤに限定することとした.すなわち,リスクを冒してでも遠投によるパスを行うのは応用とみなしている.これら4つの選択肢を抽出するために,本研究ではドロネー図による簡易的なネットワークを構成し,そこにリスクと容易性に基づく変数を導入することで,ゴールへのお勧め度を算出する手法を提案した.

 実験により,主観評価としてはある程度の効能が得られているが,被験者の属性や被験者数を考慮したさらなる研究が望まれる.また,他の類似スポーツへの適用も必要である.

(2) 文献2

 バスケットボール等のチームスポーツにおいては,防御側がどのように相手チームをとらえるかの視野イメージをつかむことで,チームとしての防御力が高まる可能性がある.そこで,二次元平面俯瞰によるシミュレータ上で,それぞれの防御側のプレイヤがどこを見るとよいかを検討した.視野の最適解を求めるのであれば,評価関数を数理モデルから定義すべきところであるが,そのモデル自体の妥当性が実際の視野データがないため,検討困難であった.そこで,1対1の防御を前提に,個人ごとのプレイヤにおける局所的な検討を行うこととした.特に,対峙する敵プレイヤとゴール位置を視野に含められる場合と,それが困難である場合に,場合分けをして,設計した.

 実験では,テストに基づくデータや主観評価を実施したが,統計的な有意までは言えないまでも,平均スコアとしては有用である可能性が示された.今後待たれるのは,チームとしての最適解を得るためのモデル化と,今回の研究における個人ごとの視野の応用ケース抽出と考えている.

(3) 文献3

 バスケットボールにおいては,1対1,N対M,ALL対ALLといったオフェンス・ディフェンスの組み合わせパタンによって,その対応策の修得が必要である.そこには,チームとしてのベース,すなわち,コート上のプレイヤ個々のプロファイルおよび関係性に基づいて,相手を考慮しないクローズドな条件下での対策・戦術が固められることがまず基本となり,相手チームのプロファイルや傾向にしたがって,それを応用するオープン条件下での対策・戦術は応用的であって,チームとしての自由度の開放という高次元のチームスキルが必要になる.まず,ただし,多くの場合,クローズドな条件下での戦術修得は,反復練習して修得するのが適しており,学習支援を行う際のダイナミズムは,オープン条件下で機能するとも考えられる.

 そこで,本研究では,1対1にまず着目し,個人の防御・攻撃時のスキル向上を目指すこととした.具体的には,攻撃側においては,用いた要素技術としては,OpenPoseによる姿勢推定を応用したソフトウェアモデルの開発があり,マルコフ過程に基づいた行動予測モデルを実現し,訓練適用を行った.防御側においては,攻撃側の行動への追従性に着目して,その反応を評価する方式を実装した.

 今後は,1対1の応用的プレイの幅を広げることも考慮すべきであるが,基本的な動きとはそもそも,認知・判断・行動選択・評価のような人間内部の過程において,どう学習していくべきかを再度検討したいとも考えている.

■Achievemet-Paper List

(査読付)

  1. Kenji Matsuura, Hiroki Tanioka, Naka Gotoda and Tomohito Wada : Self-studying environment with imagery rehearsal for a ball carrier in basketball, Proceedings of IEEE IMCOM2022, Online, Jan. 2022.
  2. Kenji Matsuura, Hiroki Tanioka, Tomohito Wada and Naka Gotoda : A guide for inexperienced players of basketball to master basic field of vision, Proceedings of IIAI-AAI2021, 196-199, Online, Jul. 2021.
  3. Kenji Matsuura, Hiroki Tanioka, Stephen Githinji Karungaru, Tomohito Wada and Naka Gotoda : Design of a one-on-one training system for basketball players, Proceedings of IIAI-AAI2021, 135-140, Online, Jul. 2021(Honorable Mention Award).

(査読無)

  1. 竹内 寛典, 松浦 健二 : チーム戦術想起のための認知促進手法に関する一検討, 電子情報通信学会2022年総合大会講演論文集, 2022年 3月 15日.
  2. 賀 蕾, 松浦 健二 : 遠隔授業・ゼミにおける視線分析に関する一検討, 第84回全国大会講演論文集, 4-955-4-956, 2022年3月15日.
  3. 山岡 凛, 松浦 健二, 竹内 寛典 : バスケットボールにおけるプレイヤ注視点の学習支援環境, 教育システム情報学会学生研究発表会, 213-214, 2022年 3月 7日.
  4. 石橋 遼樹, 松浦 健二, 和田 智仁 : チームスポーツの俯瞰視点とプレイヤー視点に着目した戦術学習支援環境, 教育システム情報学会2021年度第4回研究会, Vol.36, No.4, 40-44, 2021年11月.