研究題目:身体スキル学習支援における局所場面と大局場面を結ぶサイバーフィジカル空間に関する研究
研究番号:JP18H03344
1. Introduction
- 本研究室では,チームスポーツにおけるスキル学習を対象とした運動スキル学習の支援手法を研究しています.同人数の複数人がチームになってプレイする,フィールドまたはコートを共有する,単一オブジェクト(ボール)を事前定義されたゴールに運ぶ・通過させる,時間制限を有するといった共通的なルールによって,本研究では集団対戦型フィールドスポーツ(TSSF)と呼び,研究対象としています.本研究室では2019年度に続き,2020年度もバスケットボールを具体的な対象として研究していますが,研究成果は,同種のTSSFとして,例えばサッカー等への展開も可能な方法論となるように抽象化しています.
- 集団対戦型スポーツでは,(1)オフェンス・ディフェンスの1対1のような局所的場面と(2)チーム間といったN対Nの大局的場面の2つに大別可能です.そこで我々は,この1対1,N対Nといった場面における認知的・身体的スキル獲得のための学習支援のシステムを研究しています.具体的には,(1)では,フェイントのオフェンス側をソフトウェア実装してディフェンス側の訓練を支援したり,反対にディフェンス側をソフトウェア実装してオフェンスのフェイント訓練を支援したりします.また(2)では局所的場面としてのフェイント動作習得やチームとしての戦術理解の支援手法を開発しています.N対Nの大局的場面としてバスケットボールの戦術理解について焦点を当てています。この戦術理解では、自・他チームの行動を俯瞰視できる環境を構築し、戦術が適用される場面での判断基準の形成を対象として支援を行います.
2. Purpose
- 集団対戦型のフィールドスポーツの中でも,身体による制御対象として単一のボールを奪い合いながら,予め定められた目標に向ってそれを運ぶ入れる形式の競技における学習支援に着目します.チームの中の一員として個々のプレイヤが機能するには,チーム戦術の理解とともに,個々の身体スキルを戦術に見合ったように向上させる必要があります.チーム戦術理解のためには,まずチーム全体の動きを俯瞰視した際に,どこに着目すべきか,そこからどう推察するかといった観点が重要であり,それをプレイヤに限らず,コーチ等も理解しやすい環境が求められます.
- 本年度の研究目的は,対戦データに基づくシミュレータの中で戦術適用場面の抽出技術を拡充させ,戦術理解支援を改善することと,1対1や少人数同士の局所場面の基本的な考え方の理解支援を行うことです.これらは,特に学習者の視座に立った際に,人間の知覚・認知に対する入力源として大きなウェイトを占める視覚に着目して研究を行います.
3. Methodology
- 3.1 チーム戦術の浸透を高めるには,チーム全体の俯瞰的視点からの状況把握とそこからの行動選択をいかに修得するかが鍵となる.そこで,2020年度は,バスケットボールにおけるボールの動かし方と,サッカーにおけるプレイヤの動き方の双方について,幾何学的な観点から解析した戦術学習のための基礎研究を行った.前者では,シミュレータに用いる全てのフレームに対して,プレイヤ・ボール・ゴールをノードとしたドロネー図を描画することで,そのドロネー図から得られるノード間の関係性に基づいたアルゴリズムを定義し,行動選択指標として学べる環境が構築されている.また,後者においては,オフザボールの動きを評価するために,ボロノイ領域分割とOpenPoseを用いた姿勢判定を組み合わせた評価手法が提案された.
- 3.2 1対1においては,特にディフェンスプレイヤがどこを見るべきかが,フェイント等に対して特に重要になる.そこで,モデル視点軌跡と観測視点軌跡との間で,動的時間伸縮法(DTW)を適用し,両者が一定離れている状態と診断された際に,モデル視点に誘導させる環境が提案された.さらに,二次元シミュレータにおいては,ディフェンス側プレイヤが,そもそもどこを見ておくべきか,その原則的な視座を示す環境を構築し,その評価が行われた.ここでは,プレイヤとゴール,ボールの関係を三角形で捉えて,それに基づく評価となっているが,実際のゲームでは,このような原則が常時適用される訳ではないことから,あくまで原則的な視点の置き方を気づかせるというところに主眼があることに注意された.
4. Activities
1)キックオフ会議を開催し,研究組織全体の目的再定義と研究活動の促進を図りました.
2)研究組織の連携や協働を高めるために,研究組織内のミーティングや,代表者・分担者の間のオンラインでのミーティングを開催し,研究内容に関する議論や,学会発表等に関する方針決定を行いました
3)攻守混在する環境下での,フィールドプレイヤのマルチトラッキング技術をさらに実践的なものに改善しました.
4)集団対戦型でのフィールド共有を念頭に,コーチやプレイヤなどが俯瞰視した際の,戦術理解を促進するために,その視覚化の工夫や,そこからの場面推移,場面遷移時の予測スキルを向上させるためのシミュレータの高度化を実現しました.視線計測技術を組み合わせた環境構築を行い,その有用さの検証を行いました.
5)1対1の対戦場面やチーム内の小数人同士の場面を前提に,どうやって自らもしくは自チームが有利になるかを判断しやすい環境を設計し,そのためのシステム開発を行いました.このためには,視線トラッキングによる計測環境や,4)との組み合わせを検討しました.
- Achievement-Paper List
(査読付)
- Hiromu Naito, Kenji Matsuura and Shu Yano : Learning Support for Tactics Identification Skills in Team Sports by Gaze Awareness, Proceedings of IIAI-AAI2020, 209-212, Kitakyushu, Sep. 2020.
- Shu Yano, Kenji Matsuura, Hiroki Tanioka, Hiromu Naito, Naka Gotoda and Tomohito Wada :
A Supporting System Design for Basketball Offense Tactics, Proceedings of IIAI-AAI2020, 213-216, Kitakyushu, Sep. 2020.
(査読無)
- 谷岡 広樹 ,スポーツアナリティクスにおけるデータとAI活用,教育システム情報学会誌, Vol.37, No.3, 192-197, 2020年7月.[★解説]
- 大江 孝明, 後藤田 中, 萩原 周, 川井 翼, 米谷 雄介, 神田 亮, 八重樫 理人, 林 敏浩, 蟹澤 宏剛, 左官職人の技能継承支援システム構築に向けた習熟過程における技能指標化の試み, 教育システム情報学会 第45回全国大会論文集, B3-4,
pp.123-124, 2020年9月. [★ 第45回教育システム情報学会全国大会 大会奨励賞] - 梶原 大輔, 大江 考明, 後藤田 中, 林 敏浩, 米谷 雄介, 八重樫 理人, OpenPoseによるサッカー選手の抽出姿勢を反映したディフェンス戦術に関する視聴システムの提案, 電気・電子・情報関係学会四国支部連合大会, 18-20, 2020年9月. (1ページ)
- 箭野 柊, 松浦 健二, 谷岡 広樹, 和田 智仁, 後藤田 中 : バスケットボールにおけるボール保持プレイヤの行動選択支援環境, 教育システム情報学会第45回全国大会講演論文集, pp.121-122, 2020年9月.
- 梶原 大輔, 後藤田 中, 大江 考明, 林 敏浩, 米谷 雄介, 八重樫 理人, フットサルにおける抽出姿勢を考慮したボロノイ図の可視化によるオフザボールの評価の構築, 信学技報, vol. 120, no. 424, ET2020-73, pp. 121-126, 2021年3月.
- 長瀧 弘大, 松浦 健二, 谷岡 広樹, 和田 智仁, 後藤田 中 : バスケットボールにおけるモデル視野の獲得支援環境の設計, 教育システム情報学会学生研究発表会, pp.229-230, 2021年3月.
- 山本 連平, 松浦 健二, 谷岡 広樹, 和田 智仁, 後藤田 中 : バスケットボールの1対1におけるディフェンス注視点の学習支援環境, 教育システム情報学会学生研究発表会, pp.231-232, 2021年3月.
- 大江 孝明, 後藤田 中, 蟹澤 宏剛, 宮川 優, 米谷 雄介, 神田 亮, 八重樫 理人, 林 敏浩, 左官職人の技能継承支援システム構築に向けた技能習熟度の判定の試み, 教育システム情報学会 特集論文研究会, 2021年3月.(8ページ)
- 谷岡 広樹, 郡 涼太,回帰分析を用いたサッカー J1 リーグにおける攻撃力と守備力の分析,スポーツデータ解析における理論と事例に関する研究集会, Vol.8, 2021年3月.
- 谷岡 広樹, 中村 颯己,相関係数を用いたNPBにおける球速についての分析,スポーツデータ解析における理論と事例に関する研究集会, Vol.8, 2021年3月.